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株式会社ヤマト

ヤマトバックス・プロジェクト4

更新日:2023年3月31日

 大会前夜〜朝の来ない夜はない〜




大会2週間前、ヤマトバックスを突如襲ったチーム崩壊の危機。

トゥアン次第でスイムを棄権して、バイクとランだけの参加を考えていた。

そして大会6日前にあたる2022年6月19日(日)、運命の試泳会を迎えたのである。

今回の試泳は大会のスイムコースを贅沢に使い、プレ大会という程ではないが、

実行委員会事務局の関係者や応援も含めて30人ほどの規模でおこなわれた。





ヤマトバックスは幸運にもこの試泳会に参加することができ、

トゥアンはメンバーが見守る中でスランプ脱却に挑む事となった。

参加者は百戦錬磨の強者揃いだ。

彼らは慣れた手付きでウェットスーツを装着し、続々と諏訪湖へ入水していく。

そんな中、我らがトゥアンは諏訪湖を前にして、ただひとり裸で立ちすくんでいた。

そう、彼はウェットスーツを持ってない。

もしかすると、それを理由に泳ぎを回避するつもりだったのかも知れない。

そのくらい彼は精神的に追い詰められていた。


(やっぱり、、、諏訪湖は泳げない。)


トゥアンの背中がそう言っているように見えた。

ここで転機が訪れる。

不安そうに諏訪湖を見つめるトゥアンを見かねてか、

親切な方が予備のウェットスーツを貸してくれたのだ。


覚悟を決めて諏訪湖に入るしかないぞ、トゥアン!!

なんなら俺も一緒に泳いでやる!


私もウェットスーツ、キャップ、ゴーグルなど一式を借りる事ができた。

ちなみに私も諏訪湖には苦手意識があるといえば若干ある。

他人事ではない。

私とトゥアンは、すわっこランドで苦しい練習を共にしてきた。

その連帯感は並ではない。

2人でなら乗り越えられるはずだよな。

いや、2人だけじゃない。

バイクの林さんもランの栗原も自分の練習で手一杯のはずなのに、

トゥアンのために応援に駆けつけてくれている。


一緒に困難を乗り越えようとしている。

他の皆さんはもう既にアップを始めていて、気持ち良さそうに泳いでいる。

そうだ、いきなり泳ごうとせずに少しずつ諏訪湖の水に慣れて行けばいいんだ。


諏訪湖に足を入れる。

そして浸かる。

そこで潜る。


ここまで出来たら案外なんとかなるかもしれない。

正直に言うと、この時は自分の事で手一杯で、

トゥアンを気にする余裕がなかった。

まず自分が苦手を克服しない事にはトゥアンを見てやることができないからだ。

私がようやく『潜る』のミッションに挑戦している時、

見物者の方々が沖の方を指差して興奮していた。

何があったのだろう?

選手達がアップしている先の方を見ると


え?



うそ?



『トゥアン速っ!!』




なんと、岸から数十メートル離れたところを

トゥアンが泳いでいるではないか!

アップとは言え、選手達の先頭をきって泳いでいる姿も衝撃的だった。

自信を無くしていた、あのトゥアンが、

水を得た魚のように、

誰よりも速く

選手たちを引っ張って泳いでいる


しかも平泳ぎで


いろいろ信じ難い目の前の光景に、ようやく頭の処理が追いついて実感が湧いてきた。

まさに起死回生の大どんでん返し

トゥアンが壁を乗り越えた瞬間だった。

ヤマトバックスは1人も欠けることなく、

来週の大会に参加できるぞ!

トゥアンの勇姿に林さんも栗原も安堵の表情で歓喜していた。

私も彼らと一緒に喜びを分かち合いたい。

しかしその前に、やる事がある。


私も壁を乗り越えなければ



トゥアンの勇姿からもらった力で

難なく『潜る』をクリアし、ゆっくりと泳ぎ出すことが出来た。

ありがとう、トゥアン。


集合写真を撮り終えて、本格的に試泳を開始した。

コースは本番と同じ片道500mを一往復する。


一躍、ダークホースと化したトゥアンだが、

やはり平泳ぎではクロールで泳ぐ強豪たちにはスピードで一歩及ばない。

距離になればなるほど、その差は大きい。

だが、強豪たちに混じって生き生きと泳ぐトゥアンの姿を見れただけで充分だ。

タイムはともかく、1000mを難なく泳ぎ切った。さすがだ。

最後から2番目で岸にあがるトゥアンが漏らした一言


『僕もクロールを覚えたい。』


昨日までとは別人である。

人は一日でここまで成長できるものなのか。

ひとり悔しがるトゥアンの可能性に嬉しくも末恐ろしささえ感じた。


よし、時間は少ないが、やれるだけやってみよう!


翌日よりYouTubeをみてクロールのフォームを研究し、

すわっこランドで特訓を始めた。

辛さは感じない。

トゥアンを動かしていたのは向上心と充実感だ。


ふつう、大会6日前にもなると、

トレーニングを調整して疲労を抜いたりするのがセオリーだが、

トゥアンの身体能力に掛けてみる事にした。

どのみち、平泳ぎではヤマトバックスが制限時間内に完走できる可能性は低い。

もちろん、バイクとランの頑張りにもよるが、

仲間に迷惑はかけられないという思いが強い。

今まで仲間に心配をかけた分、少しでも速く泳いで恩返しがしたい。

その気概が林さんと栗原にも伝わり、彼らの練習にも熱が入る。

このいい流れを止めたら監督失格だとも思った。

ここまで来たら、監督としてやれる事は少ない。

あとは大会を楽しむだけだ!



次回!!

ヤマトバックスプロジェクト最終回!

大会本番の様子をお伝えします!

お楽しみに!!



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